2012/5/11絵チャログ SSを書いていただきました!



オーバーフロー(お題「根元を縛る」銀貨さん)


「霧生」
 呼ばれてやっと、沈み込んでいた意識が浮上した。
「ぼ、ボス!すみません」
 霧生は慌てて本を閉じて椅子から立ち上がり、半開きになった扉に肩を預け面白そうな目をした瑠夏を、自室に招き入れ扉を閉じた。
「珍しいね、キミがノックにも気が付かないなんて。そんなに面白い本なの?」
 瑠夏が近くに居れば、普通なら霧生は気配で気が付く。
 自覚は無かったが、相当のめり込んでいたらしい。好きな刑事もののシリーズの四年ぶりの新刊だった。
 霧生は手にしていたままの、ちょうど山場にさしかかった本をデスクの隅に追いやる。
「……いえ、大丈夫です、いかがされましたか?」
 架空の世界を振り切って、瑠夏の用件を聞くために姿勢を正した。
「うん、ちょっと……ね」
 瑠夏の手まねきに誘われるように近づくと、そのまま腕の中に拘束される。
「はい?」
「車を出してもらおうかと思ったけど、予定変更だ」
 そのまま膝を掬い上げるようにして抱き上げられて、ベッドの上に放り出された。
「え、ええええ?」
 いきなりの展開に思考がついて行かない。
 さっきまでは、小説の主人公と共に犯人を追いかけて、新宿を駆け回っていたのだ。
 いつも瑠夏とするときは、瑠夏の部屋に呼び出されることが殆どだ。
 たまに、寝室以外の所でされることもあるが、一体、今日はどこで瑠夏のスイッチを押したのか解らない。
 重く堅い体に上から伸し掛かられて観念する。元より霧生は瑠夏の望むことに抵抗する気は初めから無い。
 あっという間に前を肌蹴られ、胸元に唇を落されると簡単に息が上がる。
「ボ、ボス……」
「うん、愛してるよ」
 霧生の中が、あっという間に瑠夏でいっぱいに満たされる。
 躰の重み、体温、香り、指で、舌で、歯で、すべてで性感をかきたてられ、眩暈がする。
「あ、あっ、ううッ」
 勃ち上がった霧生の先端を、瑠夏の指先が抉りこむように擦った。
「ダメだよ、霧生。まだ始まったばかりだ」
 喉で笑われて、恥ずかしさにカッと体温が上がる。
「ああ、いいモノのがある」
 本に挟んだ栞についていた長い栞紐を瑠夏の指が引っ張る。
 張りのあるブルーの紐はするりと解けて、瑠夏の手に収まった。
「せっかちな子には、ね」
 まだ乾いて滑らかな霧生の幹に沿って指をすべらし、根元を縛める。
「うっ、あっ」
 行き場の無い快感が体の中で暴れまわり、思考が焼切れる。
「キミの中をボクでいっぱいにしてあげる」
 囁かれた言葉は意味をなさないまま、飽和状態の霧生の中に注がれ、溢れたものは涙になって頬を伝った。



END







(お題「首を拘束」ひなりさん)


「霧生に首輪をつけようと思うんだけど、どんなのが似合うと思う?」
真面目顔で机に向かっているからちゃんと仕事をしているだろうと思えば、とんでもない。
呆れ顔で溜息を吐くと少し怒ったように瑠夏がびしりと人差し指を突きだした。
「JJ。これは由々しき問題だよ。霧生は普段。地味な黒系を好む。うん。それはとても似合っている。しかし、内なる情熱を秘めた彼には赤もまた、似合うと思うんだ」
「で、普通に服を送るんじゃダメなのか?」
「服はすでに何着もプレゼントしてるしねぇ。なんて言うか、もっとこう。インパクトのあるものを。ね?」
なにがインパクトだ。
突然真っ赤な首輪なんぞプレゼントされた日には、次の日からのメーラグロッソの業務に差しさわりが出るのは目に見えている。
霧生がいない場合の自分の負担も含め、できればそんな事態にはなって欲しくはない。
「あぁ。でも、緑も良いなぁ。爽やかな青もきっと似合う。どうしよう。凄く悩む」
「もう、一生悩んでれば良いんじゃないか?」
このボスをどうしてくれようと頭を抱えると当の本人が瑠夏の執務室へと入って来た。
「ボス。午後の会合の日程を……?」
二人の視線に気づいたのか霧生は目を丸くして立ち止まる。
「ど、どうしたんですか、二人で……」
突き刺さる視線にみるみる頬が赤みを増す。
「あー。なんて言うか、赤が、似合うんじゃないか?霧生。まぁ、頑張れ。明日ぐらいならお前の仕事、負担してやる」
なんだか、この同僚が気の毒に思えて、ぽんっと軽く肩を叩いてJJは執務室を後にした。
「う〜ん。やっぱり赤かぁ」
会話の意図が掴めず困惑する霧生に瑠夏がにっこりと笑む。
「霧生。良い子だからちょっとこっちにおいで?」
「はい!ボス」
条件反射に近い反応で霧生が瑠夏の前へ駆け寄る。
「目をつぶって。はい」
素直にぎゅっと目を瞑る霧生に小さく笑いながら、机の引き出しへ手を伸ばし、そのままそっと首へと回す。
金具が霧生の肩に触れた瞬間、ビクリと体が震える。
「少し、苦しいほうが霧生は好きだよね?」
すき間ができるかできないかより、一つ詰めて金具を止めた。
少し苦しそうに霧生の喉が鳴る。
そのすき間に舌を這わせ圧迫された喉仏を舌先で突く度にくすぐったそうに体を捩る。
「逃げちゃだーめ」
首輪に繋がれた紐を引っ張る。
「ボス……、なんでこんな物を机の引き出しに……!!?」
「うん。霧生のため。凄く似合うよ」
怪訝そうな顔をする霧生の眉間にチュッと音を立ててキスを落とす。
「首輪を付けただけで興奮してる。霧生のエッチ」
スーツ越しに乳首をなぞられ再び霧生の体が跳ねた。
「だ、だめです……ボス……」
金具が絞まって、息を漏らしながら懸命に嫌々と首を振る霧生をそのままオフィス机に押し倒す。
「苦しい?じゃあ、苦しいのが分からなくらる位、うんと気持ち良くしてあげるね?」
ひくりと喉を鳴らしたのは、恐怖か。それともこれから与えられる快楽への期待からだろうか。



Fin








Doppio  (お題:霧生ちゃんに餌やり。瑠夏のミルク 銀貨さん)


「いい香りだ」
ふんわりと綺麗に泡のたったエスプレッソを瑠夏は口にした。と言っても実際は、エスプレッソの規定量の七グラムではなく、その二倍を使ったドッピオ(ダブル)だ。
「おはよう霧生」
この濃く深い味わいの飲み物を口にして、毎朝やっと瑠夏の目が醒める。
「おはようございます。ボス」
何度目かのおはようございます、を霧生は疲労困憊しつつ口にした。
おはようございます、起きてください、を繰り返し言っていても、半分眠りの国にいる瑠夏には聞こえていないのだろう。
「ん」
「今日の予定は、午後から東銀との打ち合わせと……」
皮の手帳を取り出して、霧生がスケジュールを読み上げている間に起きたはずの瑠夏はもう一度ベッドに潜り込んでいた。
五回に一度の割合でこういうことがある。
「ボス!!!」
「うーん、寒い」
こうなってしまえば、また一からやり直しだ。
「コーヒーを淹れ直してきます……」
踵を返した霧生の腕を、瑠夏が引いた。
「もういいよ、ご馳走さま。今度はボクがキミにミルクをご馳走してあげる」
どうやら、狸寝入りに騙されたらしい。
朝から一体どれだけのミルクを飲まなければいけないのか。
ドッピオ程度で済むことを祈りつつ、霧生は苦い味のキスを受け止めた。


End